玄 げん
建物は、清酒「春鹿」で知られる今西家の別宅を使用。靴を脱いで上がり、坪庭が見える落ち着いた和室へ通されます。春日杉の一枚板を使った欄間、東大寺の長老の掛け軸、店主奥様が生けた季節の花など、趣き深いしつらえに、もてなしの心を感じます。
蕎麦は、せいろ蕎麦と田舎蕎麦の2種類。毎朝ご主人の島﨑宏之さんが石臼で手挽きする、つなぎを使わない十割そばです。
目を見張るのは、蕎麦の細さ。十割蕎麦でここまで細く打っているところはそうありません。
「十割蕎麦は伸びやすいんです。蕎麦を一人前ずつ湯がきたいので、時間をかけず湯通しするために蕎麦を細く切っています」と島﨑さん。
複数の注文分を同時に湯がくのではなく、おいしく味わってもらうために、一人前ずつ丁寧に。そんな島﨑さんの思いからこの細さに至りました。
聞けば、島﨑さんは「玄」を開店する前は、木管楽器のリードを作る職人だったそう。現在も本業の合間を見て、作っているとか。葦(あし)を薄く削っていくリード作りは、ミクロ単位の繊細さが必要な手仕事。「それに比べたら、蕎麦を細く切る方が簡単かも」とにっこり。
せいろに盛って出される「梅たたき水蕎麦」は、せいろ蕎麦を水、塩、梅肉で味わう蕎麦です。
こちらはもともと、蕎麦本来の味をストレートに感じてもらうために作ったメニューだとか。
細くて美しいせいろ蕎麦を、5つの食べ方で楽しめます。まずは何もつけずにどうぞ。次に藻塩で。その次は塩をのせて水につけて。最後は梅肉をのせて水につけていただきます。
それぞれで味が変化し、特に水につけて蕎麦をすすると、繊細で奥ゆかしい風味と香りがより引き立ちます。
蕎麦の実を外殻のついたまま石臼で挽いた、挽きぐるみの「田舎蕎麦」は、上品さの中に蕎麦本来の風味がしっかり感じられます。
昆布やシイタケ、花ガツオなどでとったつゆは、甘みや酸味、旨みなどが、まるで丸い円の中に収まっているようなバランスのよさ。ひと箸たぐり、つゆにつけていただくと、口の中に静かで深い余韻が残ります。
「そば粉を手で挽いているから“粘り”がわかる」と島﨑さん。毎朝、季節や天候を見ながら、その日にあった丁寧な挽き方をしているからこそ、こんなに細い十割蕎麦なのに、ボソボソと切れたりしないんですね。
体の中をさわやかな風が吹くような、研ぎ澄まされた極上蕎麦をどうぞ。
玄(げん)
- 住所
- 奈良市福智院町23-2
- 電話
- 0742-27-6868
- 営業時間
- 11:30~13:30(1日に打てる蕎麦の数が限られているので要予約)、18:00~21:00(完全予約制のコース料理)
- 定休日
- 日・月曜、土曜の夜
※価格は全て税込みです
※最新情報は各所へお問い合わせください