栄吉 えいきち

旅館を営んでいた「栄吉」が軽食処を開いたのは、昭和40年代。
「よもぎを使った草餅はこの辺りに昔からあったけど、回転焼きはなかったんです」と、地元で採れるよもぎを入れた回転焼きを始めました。

小麦粉などを円形の型に流し込んで、あんこを入れて焼いたお菓子のことを関西では回転焼きと呼び、地域によって今川焼、大判焼など呼び名が違います。
こちらの回転焼きは、開店当時から長年使い続けている銅板の型にラードを塗り、よもぎをたっぷり入れた生地を流し込んで、火加減を調整しながら焼いていきます。

よもぎは摘んだその日の夜に湯がいてアク抜きしたものを使っており、香りが強く風味豊か。
風味をより感じてもらえるよう、生地に少し塩を入れる工夫も。
卵と牛乳を使っていないので、アレルギーを持つ子どもも安心して食べられると喜ばれています。
モチモチっとしたやわらかな生地と生地の間には、よもぎの風味を損なわないようバランスよく粒あんが入っています。

この回転焼きを作るのは杉本勝子さん、84歳。年中無休で毎日、朝から一つひとつ手焼きしています。
50年前の開店当時から店頭に立ち、長年の常連客から「おばちゃん、また来たよ」と慕われる室生の名物おかあさんです。

バスを待つ間に食べる人や、歩き疲れて甘いものを口にしたい人、「室生寺に来たら食べたくなる」というリピーターなど、たくさんの人たちがこの味を求めて訪れます。

あたたかくて甘い回転焼きを頬張ると、ほっこりした気持ちに。散策の疲れもどこかに吹き飛んでしまいそう。
帰り際「気を付けて、お元気で」と杉本さんが言ってくれる一言に、みな笑顔で「ありがとう」と店を後にする。そんな心も満たされ、旅の思い出になる素敵なお店です。
