仁王門をくぐり、最初に心を奪われるのは、右手にある「ぼたん園」。正面には、清々しい建築美をたたえた「登廊(のぼりろう)」がまっすぐに伸び、境内の“花めぐり”に誘います。
登廊は、第一から第三まであり、399段のなだらかな石段が本堂まで連なります。その第一登廊に広がる「ぼたん園」は、圧巻の見どころ。絢爛と競い咲く、色とりどりのぼたんは、「花の御寺・長谷寺」を代表する光景です。花々が放つ生命力に、花を愛でる人々の表情も自然と美しく輝きます。
広大な境内の随所に植えられたぼたんは、約7000株・150種。唐の皇后・馬頭夫人(めずぶにん)が、長谷観音の霊験で美しくなり、感謝の種子を献じたことが、はじまりとも伝わります。
ぼたんの群生が見られる主な場所は他にも、本坊前の「ぼたん園」、中雀門(ちゅうじゃくもん)前の参道脇などがあります。
しっとりとした風情が古刹の佇まいによく似合うあじさいも「花の御寺・長谷寺」を代表する花。西洋あじさい・額あじさいなど、約3000株・10種類が、新緑の頃から梅雨時期にかけて色づきます。
おすすめの場所は、本堂左手階段の土手側、「嵐の坂」の両脇、「天狗杉」の根本、西参道の土手側など。
嵐の坂は、第一登廊が終わったところで、第二登廊には進まず、正面の石段を直進したあたり。両側斜面の約40mにわたって「あじさい園」が広がります。「うまし うるわし 奈良 2019長谷寺・奈良大和四寺編」のあじさいが石段沿いに咲きこぼれる写真の風景は、この嵐の坂をのぼり、本堂を見上げる場所で撮影しています。
奈良八重桜
(ならのやえざくら)石楠花(しゃくなげ)
山法師(やまぼうし)
芍薬(しゃくやく)
凌霄花(のうぜんかずら)
百日紅(さるすべり)
花々が盛りを迎える初夏にかけては他にも、「いにしえの奈良の都の八重桜 今日九重に匂いぬるかな」の歌で知られる「奈良八重桜」、薄いピンク色がきれいな「石楠花(しゃくなげ)」、僧兵が被る白い袈裟に似た白い花の「山法師(やまぼうし)」、ぼたんと入れ替わるように咲く「芍薬(しゃくやく)」と続きます。
やがて、多くの花が一段落すると、青空にオレンジ色が映える「凌霄花(のうぜんかずら)」が咲き、ピンク色の「百日紅(さるすべり)」が花開くと、境内に夏が訪れます。
「馬頭夫人伝説とお社」
長谷寺のぼたんの由来とも伝わる馬頭夫人は、唐の僖宗(きそう)皇帝の妃。容姿には恵まれなかったものの、才にあふれ、皇帝の寵愛を得ていましたが、他の妃に妬まれて窮地に陥りました。自らの容姿を美しくしたいと7日7晩、長谷寺の観音様に祈願したところ、願いが叶います。馬頭夫人は、お礼に10種の宝物を献じ、護法善神になることを約束なさいました。その宝物に添えてぼたんがあったのです。
夫人をお祀りした境内の「馬頭夫人社」にも、ぜひお参りください。
※花の名前をクリックしていただくと画像がご覧いただけます。
4月 | 5月 | 6月 | 7月 | ||||||
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下旬 | 上旬 | 中旬 | 下旬 | 上旬 | 中旬 | 下旬 | 上旬 | 中旬 | 下旬 |
- 鬱金桜
- 御衣
黄桜 - 山吹
- 木瓜
- 満天星
躑躅 - 雪柳
- 奈良八重桜
- 大手毬
- 花蘇芳
- 牡丹
- 石楠花
- 花水木
- 姫空木
- 藤
- 小手鞠
- 山法師
- 唐種招霊
- 躑躅
- 芍薬
- 鉄線
- 白丁花
- 花菖蒲
- 沙羅双樹
- 桔梗
- 大山蓮華
- 泰山木
- 紫陽花
- 凌霄葛
- 蓮
- 水連
- 百日紅
- 夾竹桃
- 姥百合
鬱金桜(ウコンザクラ)
御衣黄桜(ギョイコウサクラ)
山吹(ヤマブキ)
木瓜(ボケ)
満天星躑躅(ドウダンツツジ)
雪柳(ユキヤナギ)
奈良八重桜(ナラノヤエザクラ)
大手毬(オオテマリ)
花蘇芳(ハナズオウ)
牡丹(ボタン)
石楠花(シャクナゲ)
花水木(ハナミズキ)
姫空木(ヒメウツギ)
藤(フジ)
小手鞠(コデマリ)
山法師(ヤマボウシ)
唐種招霊(カラタネオガタマ)
躑躅(ツツジ)
芍薬(シャクヤク)
鉄線(テッセン)
白丁花(ハクチョウゲ)
花菖蒲(ハナショウブ)
沙羅双樹(サラソウジュ)
桔梗(キキョウ)
大山蓮華(オオヤマレンゲ)
泰山木(タイサンボク)
紫陽花(アジサイ)
凌霄葛(ノウゼンカズラ)
蓮(ハス)
水連(スイレン)
百日紅(サルスベリ)
夾竹桃(キョウチクトウ)
姥百合(ウバユリ)
※開花時期は目安です。季節や気象状況によってずれる場合がありますのでご了承ください。写真はイメージです。
巨大な本堂は、標高約548mの初瀬山(はつせやま)の中腹にあります。その斜面にせり出すような「外舞台」は、「懸造り(かけづくり)」(「舞台造り」とも)と呼ばれる構造で、高さは約10m。この舞台に立ち、空を近くに感じながら、周囲の山々を眺めると、「天空の御寺・長谷寺」と呼ばれることも納得できます。
現在の本堂は江戸時代の再建ですが、創建は奈良時代とも。平安貴族が「初瀬詣で」にいそしんだ頃、現在のように整備された登廊はまだなく、かの清少納言は「参道は大変危険で脇の方に寄って高欄につかまりながら歩いた」と枕草子に記しています。辛さも厭わず、あこがれや願い事を胸に、ようやく訪れた場所からの眺めは、一体どのようなものだったでしょうか。
千年変わらぬ、爽やかな風。日常では体験できない遥かな眺望。長谷寺の外舞台ならではの、心も体も洗われるようなひと時が体験できます。
「山岳信仰と外舞台」
「諸国名所百景」国立国会図書館
長谷寺は山に囲まれています。古来の「山そのものが神」という信仰から考えると、神々に囲まれたお寺ともいえるでしょう。長谷寺の舞台は、御神体である山々に礼拝するために生まれた、といわれています。
時代が進み、参拝者が増えるのにともない、舞台そのものは大きくなっていったそうです。現在の外舞台は、奥行き約8.67m、幅約12.75m。古い絵図からも、外舞台で人々がお参りをしている様子が伺えます。
山の澄んだ空気が心地いい、朝6時頃。受付を済ませて内舞台に参列し、渡された袈裟を身につけると、気分がすっと引き締まります。
6時30分、いよいよ読経のはじまりです。太鼓の音と僧侶の声が、朝の静寂に清々しく響き渡ります。お経を読むのが初めての方もすぐに馴れ、しっかりとした声で唱和できるようになるそうです。気持ちのいいリズムに乗り、あっという間に予定の40分が終了します。
勤行の後は、僧侶の方々による「遥拝(ようはい)」を拝観。外舞台に整然と並び、境内の諸堂に向かって合掌、頭を垂れる厳粛な姿は、あらためて、ここが仏道修行の場であることを感じさせます。
凛とした山の空気、僧侶の方々の明朗闊達な声、お堂に響く下駄の音。都会では経験しがたい、長谷寺だからこそ味わえる貴重な時間が過ごせます。
祈りの回廊 朝の勤行
- 4月~9月(夏時間/毎朝6:30から約40分)
- 10月~3月(冬時間/毎朝7:00から約40分)
- ・法要開始:30分前から受付開始
- ・勤行開始:ご僧侶と一緒にお唱えし、遥拝をご覧いただけます。
- ※特別拝観開催中は、終了後の本尊・十一面観音菩薩立像の参拝が可能。
- ※参列の券をお持ちの方は再入山が可能。
- ・参加料 500円
<ご注意>本尊・十一面観音菩薩立像に礼を尽くし供養する法要です。丈の短いスカートやズボン、華美な服装など、お参りにふさわしくない服装の方は参列をご遠慮いただく場合があります。
長谷寺のご本尊・十一面観音菩薩立像の身丈は大きく、約10.18m。左手に宝瓶(ほうびょう)を持ち、右手に錫杖(しゃくじょう)を持つ「長谷寺式」と呼ばれる姿は、通常、上半身のみの拝観。春と秋の年2回行われる特別拝観の時期に限り、全身を拝観できます。
特別拝観の受付を済ませて本堂に入ると、観音さまとご縁を結ぶための「五色線(ごしきせん)」が授与されます。五色線を左手首にかけ、身を屈めるようにして、ほの暗い空間を奥へ。ほどなく見えてくる、黒く、つややかに輝くものが、ご本尊のお御足(おみあし)です。見上げると、息を呑むほど荘厳で、慈悲に満ちた十一面観音菩薩立像の姿があり、その大きさにもあらためて心打たれます。
長年、人々が願いを込めて触れ磨かれたお御足の周囲をよく見ると、下に方形の台座があります。これは、大磐石(だいばんじゃく)と呼ばれ、仏でありながら蓮台の上に立たず人の世にいるお姿を表しています。方形の岩座に観音像が立つこの形式は、「長谷寺式」の特徴の1つです。
期間限定のこの機会にぜひご本尊に直接触れ、ご縁を結んでください。
「磐座(いわくら)に立つご本尊」
観音像が立つ台座・大磐石の存在は、岩を信仰の対象とする磐座信仰(いわくらしんこう)にルーツをもつといわれています。長谷寺の縁起絵巻には、雷鳴がとどろき、大地が揺れ、大磐石が地中から湧出する様子が描かれ、大磐石を守護する善神がいるとの伝承も残されています。
現在、観音像が立つ台は「大磐石蓋(だいばんじゃくがい)」とも呼ばれており、大地の深いところにある「金輪際(こんりんざい)」から伸びてきている、たいへんに堅固な大磐石の上を覆う蓋の台、という意味があります。