仏女・田中ひろみのすすめる 奈良の十一面観音像

十一面観音とは、苦しんでいる人をすぐに見つけるために
全方向を向くたくさんの顔が頭上にある像

室生寺(金堂)「少女のようにかわいい」

国宝/木造/平安時代前期
鎌倉時代から女性に門を開いていたので、別名「女人高野」と呼ばれている室生寺。その室生寺の金堂の須弥壇には、向かって左から十一面観音、文殊菩薩、本尊の釈迦如来、薬師如来、地蔵菩薩といった順序で五体の仏像が一列に並び、その前には小さめな十二神将がガードマンのように立っています。一番左の十一面観音像は、彩色も良く残る華やかな観音像として有名ですが、大部分が後の時代の補彩です。現在ある華麗な光背も後世に補われたものです。伏し目気味の目、丸くふっくらとした頬、ほんのり赤いおちょぼ口は、まるで少女のようでとてもかわいらしい。胸飾りも華やかです。小さなお花がついた冠もキュート。身体も丸みがあり、肉感的です。正面からは見えませんが、頭上面の後ろには口を大きく開けて悪を笑い飛ばす「暴悪大笑面」があります。

長谷寺(本堂)「お地蔵さんのお役目も」

重要文化財/木造/室町時代
長谷寺は、末寺三千寺を抱える真言宗豊山派の総本山。また西国三十三観音霊場第八番札所でもあります。ここ長谷寺のご本尊の十一面観世音菩薩は約10mもあり、大きさときらびやかさに圧倒されます。重文クラスの木造の仏像では、最大級とされます。大きなお姿で、私たちを救ってくださいそうです。そして、十一面観世音菩薩なのに、右手に錫杖をもってらっしゃいます。普通、錫杖を持っているのは地蔵菩薩。十一面観世音菩薩なのに、地蔵菩薩のお役目もされているとのこと。このように錫杖を持っている十一面観世音菩薩を「長谷寺式十一面観音」と言います。

聖林寺「威厳のあるお顔」

国宝/木心乾漆/奈良時代
聖林寺のに十一面観音像は、怒り肩でまるで肩パットをいれているようです。切れ長の目が正面を正視して少し怒っているようにも見えますが、気品に満ちた威厳あるお顔が魅力的です。木彫りで像の概形を作り、麻布を漆で貼りその上に漆に木粉等を混ぜた木屑漆(こくそうるし)を盛り上げて作られた木心乾漆像(もくしんかんしつぞう)。金箔は、まだらにはがれ落ちています。元は、大神神社の神宮寺であった大御輪寺から移されたとされる像です。明治時代に来日した哲学者・美術研究家のフェノロサがこの像を賞賛し、白洲正子や多くの超名人が「天平彫刻の最高傑作」と褒め称えた像です。

田中ひろみ イラストレーター・文筆家。

大阪府生まれ。セツ・モードセミナー卒業。奈良市観光大使。歴史に造詣が深く、よみうりカルチャーセンター、 中日文化センター等で仏像の見方や史跡めぐりの講師も務めるほか、はとバスなどで仏像ツアーの同行講師。著書は40冊を超える。