奈良時代や平安時代初期、お酒は朝廷内で造られていましたが、次第にお寺で造られるようになりました。なかでも、興福寺大乗院の別院だった正暦寺は、大量の僧坊酒(僧侶が醸造するお酒)を造る大寺院でした。かつて日本酒は白く濁った濁酒でしたが、室町時代、正暦寺で「菩提酛(ぼだいもと)造り」という革新的な酒造りが確立され、現代の私たちが目にする、あの透き通った「清酒」の原点が誕生しました。
その後「菩提酛造り」はいったん途絶え、幻の醸造法となりますが、1999年に有志らが集い、500年ぶりに復活。現在は県内8社の酒蔵が集まり、毎年1月に境内で菩提酛という酒母を造り、各蔵に持ち帰って醸造しています。できあがったお酒は正暦寺で購入することができます。
その後「菩提酛造り」はいったん途絶え、幻の醸造法となりますが、1999年に有志らが集い、500年ぶりに復活。現在は県内8社の酒蔵が集まり、毎年1月に境内で菩提酛という酒母を造り、各蔵に持ち帰って醸造しています。できあがったお酒は正暦寺で購入することができます。
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- 日本で初めて酒造免許を取得したお寺。
- 「日本清酒発祥之地」の石碑が建つ。
- 室町時代、「正暦寺のお酒は天下第一」と評された。
- 毎年1月に酒母造りを見学できる「菩提酛清酒祭」が行われる。(※2021年は1月9日に開催)
正暦寺(しょうりゃくじ)詳細情報
正暦寺(しょうりゃくじ)
- 住所
- 奈良市菩提山町157
- 電話
- 0742-62-9569
- 拝観時間
- 9:00~16:00(受付は15:30まで)
- 拝観料
- 福寿院客殿500円(特別拝観の期間中は800円)
- アクセス
- JR・近鉄奈良駅からタクシー約25分
- WEB
- http://shoryakuji.jp/
※最新情報は各所へお問い合わせください
日本最古の神社の一つ・大神神社(おおみわじんじゃ)は、酒造りの神様として信仰を集めています。『日本書紀』によると、崇神(すじん)天皇の御代、流行していた疫病をおさめるため、神様に供えるためのお酒造りを高橋活日命(たかはしいくひのみこと)に命じます。活日は一夜にして美酒を醸し神様に供えると疫病がおさまりました。活日は「大物主大神(おおものぬしのおおかみ)のお力でこのような美酒を醸すことができたのです」と歌に詠み、以来ご祭神の大物主大神は酒造りの神様として敬われるようになりました。
活日は杜氏の祖神として境内の活日神社に祀られています。
活日は杜氏の祖神として境内の活日神社に祀られています。
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- 日本全国の酒造関係者から酒造の神様として篤い信仰を集めている。
- 毎年11月14日に新酒の醸造の安全を祈る「醸造安全祈願祭(酒まつり)」が行われている。
- 高橋活日命は、大物主大神に捧げる神酒を造った掌酒(さかびと。杜氏のこと)と『日本書紀』に記されている。
- 酒蔵の軒に吊る杉玉は新酒ができた合図。大神神社の境内の神聖な杉を使い、1つずつ手作りされて全国の酒蔵に送られている。
大神神社(おおみわじんじゃ)詳細情報
大神神社(おおみわじんじゃ)
- 住所
- 桜井市三輪1422
- 電話
- 0744-42-6633
- 拝観時間
- 境内自由、授与所9:00~17:00(12~2月は変動あり)
- 拝観料
- ご祈祷・神山登拝・収蔵庫拝観は有料
- アクセス
- JR三輪駅から徒歩約5分
- WEB
- http://www.oomiwa.or.jp/
※最新情報は各所へお問い合わせください
かつては全国の大きな神社で酒造りが行われていましたが、現在唯一、神社で醸造施設が残っているのが春日大社です。御本殿の回廊の西側にある酒殿(さかどの)は、貞観元年(859年)に創建された現存する最古の酒蔵。酒弥豆男神(さかみずおのかみ)と酒弥豆売神(さかみずめのかみ)をご祭神としてお祀りしています。『続日本記』の天平勝宝2年(750年)に「春日酒殿」の記述があることから、創建は更にさかのぼる可能性が高いとみられます。内部には大甕(おおがめ)が置かれ、現在も、毎年3月13日に行われる例祭「春日祭」にお供えする濁酒を醸造しています。
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- 平安時代創建の現存最古の酒蔵がある。
- 建物は国の重要文化財に指定されている。
- 奈良市内の酒蔵から杜氏が来て、今も御神酒を醸造している。
- 醸造された御神酒は、天皇陛下の名代である勅使が遣わされる1200年続く例祭「春日祭」にお供えされる。
春日大社(かすがたいしゃ)詳細情報
春日大社(かすがたいしゃ)
- 住所
- 奈良市春日野町160
- 電話
- 0742-22-7788
- 拝観時間
- 本社参拝6:30~17:30(11月~2月は7:00~17:00)
- 御本殿の特別参拝9:00~16:00、国宝殿10:00~17:00(入館は16:30まで)
- 拝観料
- 御本殿の特別参拝500円、国宝殿500円
- アクセス
- 近鉄奈良駅からバス約10分「春日大社本殿」下車すぐ
- WEB
- https://www.kasugataisha.or.jp/
※最新情報は各所へお問い合わせください
奈良酒は今、全国の日本酒のコンペティション等で受賞するなど、注目度が急上昇しています。その中でも、いま奈良で注目を集める新世代の造り手4人をご紹介。研ぎ澄まされた銘酒で日本酒ファンをうならせる彼らに、酒造りの真髄についてお聞きしました。
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- 宇陀市・芳村酒造の「神仏習合の酒」は大神神社のササユリから採取した酵母を使い、室町末期から江戸初期に興福寺の僧が記した『多聞院日記』の醸造法をもとに造られたお酒。濃厚で個性的な味わい!
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- 氷が貴重品だった奈良時代、大貴族・長屋王は都祁(つげ)の氷室(ひむろ)から平城京の邸宅に氷を運ばせていたそう。『日本書紀』には当時お酒に氷を入れて飲んでいたという記述もあり、長屋王もオンザロックでお酒を飲んでいたのかも。
※都祁(現在の奈良県天理市福住町周辺)
※氷室(自然を利用した貯氷庫)
- 氷が貴重品だった奈良時代、大貴族・長屋王は都祁(つげ)の氷室(ひむろ)から平城京の邸宅に氷を運ばせていたそう。『日本書紀』には当時お酒に氷を入れて飲んでいたという記述もあり、長屋王もオンザロックでお酒を飲んでいたのかも。
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- 日本酒は昔、甕(かめ)で造っていましたが、江戸時代に漏れにくく色が付きにくい吉野杉の樽や桶が普及したことで大量生産できるように。樽は割れにくく軽いため大量輸送も可能になり、江戸で日本酒ブームが起きました。
人気銘柄「風の森」の酒蔵・油長酒造(ゆうちょうしゅぞう)の13代目当主。大学卒業後百貨店勤務を経て2007年に蔵へ戻り父親と酒造りを行う。2019年創業300周年を機に、代々伝わる当主の名前「長兵衛」を襲名。
「風の森」の名前の由来は、風の神様をお祀りする風の森地域の水田でとれた米で造り始めたから。飲むと、体中にさわやかな風が吹き抜けるかのようです。そのフレッシュで複雑味あふれる味わいの秘密は「無濾過・無加水・非加熱・長期低温発酵」による緻密でデリケートな酒造りにあります。今や全国区の人気を誇りますが、販売当初の20年前から「地元の人にしぼりたての生酒を楽しんでほしい」というコンセプトは変わりません。「日本清酒発祥の地といわれる奈良で、室町時代に確立された醸造技術が現代の酒造りの礎」と山本さん。「醸造技術や知見は日々進歩しています。ならばこの現代にしか、今の私たちにしか造れないお酒に挑んでいきたいです」と胸を膨らませます。
720ml 1,155円
酒の神様が鎮まる大神神社のお膝元、三輪の地で創業360年の酒蔵の14代目。父親の急逝により2011年28歳の時に会社員を辞め東京から蔵へ戻り当主に。
今西酒造は、大神神社の御神体・三輪山の伏流水を仕込み水に使い、三輪の水で育てた米で酒造りを行う蔵。「三輪を飲む」をコンセプトに掲げる今西さんは「ここで酒造りを行えることを誉(ほまれ)に思う」と話します。「酒の聖地である三輪で、唯一残るのが当蔵。酒の神が宿る場所で、酒の神が宿る原材料を使って、三輪をしっかりと表現する酒造りがしたいと思っています」。全国新酒鑑評会で5年連続金賞に輝き、2019年には全国の酒蔵が市販酒の出来栄えを競う「仙台日本酒サミット」で1位を獲得するなど、今や名実ともに奈良を代表する酒蔵に。2020年からは吉野杉の桶を使った酒造りを始めるなど、ますます進化が止まりません。
Dio Abita(ディオアビータ)
720ml 1,650円
東京農業大学醸造科学科卒業後、乳酸菌に興味を持ち大手乳業メーカーへ就職。2015年に蔵に戻り7代目に。現在はメーカーでの経験を生かし、新しい酒造りを模索・挑戦している。
奈良時代に天然氷を貯蔵する氷室があった都祁(つげ)の地に蔵を構え、良質な天然水で酒造りを行う倉本酒造。正暦寺での「菩提酛(ぼだいもと)造り」を復活させた研究会のメンバーであり、毎年1月に正暦寺で酛を仕込み、蔵に持ち帰って醸造しています。そうしてできたのが菩提酛純米酒「つげのひむろ」です。「私の酒造りは、温故知新。伝統を守ることを大切にしていますが、一方で新しいことにチャレンジしていくことも、清酒発祥の地・奈良の酒蔵としての使命」と倉本さん。2019年は、今まで日本酒では表現されなかった香りのお酒に挑戦したそうで、まるでフランスの白ワイン・ソーヴィニヨン・ブランのような香りなんだとか。日本酒の未来を探求する酒造りに目が離せません。
つげのひむろ
720ml 1,650円
東京農業大学醸造科学科卒業後、兵庫県・灘の「剣菱酒造」で3年間修業。その時に酵母無添加の酒造りに出会い、蔵へ戻ってからその方法を突き詰めている。2008年から杜氏を務める4代目。
日本酒ツウの間でたびたび話題にあがる「花巴(はなともえ)」は、吉野川沿いに蔵を構える美吉野醸造の看板銘柄です。「吉野の風土に寄り添う酒造りを考えたとき、お米の品種や精米歩合に縛られない酒造りをしようと思ったんです」と橋本さん。吉野の農業と林業に触れるなかで、自然淘汰や自然共存を意識するようになり、酵母無添加の製法にたどり着いたといいます。それは「花巴」の特徴でもある「酸(さん)」の底力を引き出す酒造り。「酸にはいろんなタイプがあって、それをどうアレンジして表現するかがおもしろい」と橋本さん。これまでの日本酒のイメージを鮮烈に塗り替える、「花巴」でしか出せない妙味にリピーター続出です。
720ml 1,650円